ブラック・ボーイ 感想

ブラック・ボーイ―ある幼少期の記録〈上〉 (岩波文庫)

ブラック・ボーイ―ある幼少期の記録〈上〉 (岩波文庫)

リチャード・ライトの自伝的小説。アメリカにおける1900年代初頭の空気が味わえる。
タイトル通り、主人公は黒人で、幼少期のころから生活に違和感を覚え始めている。一家の稼ぎ手が、白人に妬まれて殴り殺されたり、自分がおつかいに行くと白人の少年グループに暴力で金を巻き上げられ、泣きながら棍棒で白人を殴り倒すという経験は、本当に異常なものだ。

ただし、白人側からの差別に苦しみ、その正当性を訴えるだけではなく、差別からの軋轢によって堕落する黒人の多さについても言及し、また黒人の子供達がユダヤ人を嘲笑する歌を店先で歌うなどといったエピソードもあり、黒人への戒めと見られるような文章も見受けられる。また、白人の中にもたまに差別意識を持たない者がいる・・・・・・のだが、本当に極僅かで、実は理解者を装って黒人同士にケンカをさせて楽しもうとするような輩だったりする。主人公はそういった経緯から、白人の善人に悪人の違いを見抜けず、たとえ善人のように見える人でも拒絶するようになってしまう。

最終的には主人公が北部へ脱出したところでこの本は終わるのだが、解説によれば元々この本は二部構成だったのだが、一部だけ発表するなら作品賞を与えると協会に言われたらしい(するとどうやら二部はそこまで出来がいいわけではないようだ)。リチャード・ライトの本は他にも読んだことがあって、殆ど面白みを感じられない本だったのだけれど、この本は本当に興味深く、歴史的資料としての価値もあるのではないかと思った。