インシテミル 感想

もちろん、ネタバレ全開だよ。



普段はサスペンスや、ミステリーものを読んでいても犯人の予想なんて適当にやりがちな俺ですら、この本を読んでいる間はあれこれ推理せざるをえなかった。登場人物たちはお互いを疑い合いながら行動していた為、並のミステリであれば伏線にできそうな”ちょっとした疑問”の殆どは、主人公や安東、箱島といった面子に潰されていくので、自然とそうさせられるのだ。


序盤から一体どういう展開になっていくのか予想がつかなくて夢中になった。二人目の犠牲者を手にかけた岩井はあっさりと捕まり、監獄へ行ったわけだが、本当は真犯人がいるのかもしれない、と僅かな疑問を残していたのは俺だけでしょうか。そして、その後の事件の動き方。
まさか二日目から毎日犠牲者が出て行くなんて、思いもしなかった。


必ずインターバルのような期間があると踏んでいたのだけれど、思った以上にハイペースで人が死ぬのでびびる。だいたい半分まで減ったところで解決編して脱出路だろうなあ、と楽観していたら主人公が調子に乗って投獄されて人数は残り三人!そして意外にもミステリマニアで暗算が得意な岩井さんによって、真相の裏づけをとる。


読者という安心しつつ冷静にこの事態を傍観できる立場からは、
「これ、全員の凶器を金庫に入れとけばそれでいいんじゃね?」などと思ったりしていたけれど、後半の「若菜みたいな女からすれば〜」のあたりでようやく納得できました。読者の疑問も登場人物と一緒に潰してくれやがる。


起爆剤である西野さん。彼はどんな人生を歩んできたのだろう。
やつれきっていたし、食事の時の台詞からは超苦労してる善人という印象だった。過去といえば真木さんもきになるかな。他殺体が珍しくないって、どういうお仕事してたんすか。「短期募集バイトと平行して受けた」のは彼なのか?


で、犯人である関水。なぜ10億も必要だったのか、それは家の借金だったのか、<主人>に課せられたノルマだったのか。そして最後に家を出た彼女。ナイフを携えていたのは、<主人>への復讐のため?人知れず自害するため?謎は多い。


そして須和名さん。彼女のいう指一本とはいったいどれほどの額だったのだろう。10兆は軽く超えてるよね。行動もぶっ飛んでいる。冒頭で「危険だと止められ」ていたが、しれっとその内容を知りながら実験に参加し、その工程を犯人にも被害者にもならずに見送った。本気出せば100億稼ぐのも余裕だけど、須和名家はその程度の金額でどうこうできるほど落ちぶれちゃいないと。そして次の実験を主催するわけですね・・・・・・。


彼女の行動で不可解だったのは、何故最後に結城へ招待状を送ったのかということ。
手紙には前回成果を挙げたからと書いてあった。しかし、毒にも薬にもならぬ性格と無欲さをあわせもった結城君は、「こんな実験を行うやつが気に入らない」とはっきり言っており、そこらへんを人覚えの悪い須和名さんが忘れてたのか、それとも前回の探偵役としてウケがいいのだろうとだめもとで送ったか。


もしくは、三つ目になるけれど───序盤で主人公も語ったように、屈強な男に囲まれて、NOということは難しい。意思など関係なく脅して無理やり連れて行くということもありえる。さらにさらに、関水のような条件まで突きつけられたりして・・・・・・。


まあ、彼女は単なるミスリード要因だったと考える。序盤から「指一本」がずっと気になっていたので、監獄の中で計算が始まり、化粧品の話が出た時は「こいつか!」なんて思わされた。


実験については、やはりヘンタイにとってのスナッフビデオのようなものであり、大勢の観る者がいて、彼らが主催者に金を支払っていて、ガードロボとそれに目をつけた須和名家が次の実験を開始することにした。みたいな解釈でいいのかな?とにかく謎が多いが、この本はそういうところは考えないほうが良いのだろう。


12人も覚えられるかなーと思っていたけれど、王道な好青年とそのカップル、それに従う腰ぎんちゃく、周りを見下した頭のいい男と利口ぶってるけどツメが甘い馬鹿、空気の読めないミステリ読み、とてつもない苦労人とやっぱり苦労人、謎のヴィジュアル系、お嬢様、目つきが鋭い女、とりあえず車が欲しい男。結構簡単に覚えられましたね。


このうち9人が時給につられ、+一人が見学のためにインシテミルわけですね。それがThe incite mill(=刺激して粉を挽かせる)へと発展していくんだなー。そして作者がミステリというガジェットに淫してみるんだね。タイトルの意味が深すぎる。すげー個性的な雰囲気をかもし出しているよホント。西島さんの絵がここまでイメージに合うなんて思わなかった。


次は同作者の「氷菓」あたりを読もうと思う